いつもので
画像:顔書き直し
天気:晴れ
チャリが胡乱な輩にパクられてからというもの
俺の生活はどことなく異変を見せているように思えた。
が、それは本当に矮小な違いで
なべて世はこともなく、何てことはないいつもの見慣れた日常に
若干の毛が生えた程度のものに過ぎない。
まだ22歳、もう22歳。
考え方は様々だけど、若さゆえか性格の問題か
何かとじっとはしていられない俺は、昼休みにちょっと遠くへ
足を伸ばしてみることにした。
会社のビルより数十メートル離れると
そこはもう閑散とした路地裏である。
この間、駅へいった際みかけたカレーとコーヒーのお店が
この曲がり角にあったのを見つけたのだ。
店内に入ると初老の女性がカウンターに腰掛けていた。
俺は狭い通路を進んで、奥から二番目の同じカウンター席へ腰を下ろした。
メニューを見ながら彼女と店員の会話を聞いていると
どうやらその女性は常連らしい。
注文する際に、リアルではあまり耳朶にしない
「いつものね」なんて言葉が交わされていた。
正直、俺もいつか言ってみたい気持ちはある。
食事後、何も入れていないコーヒーをすすっていると
その客から歎美の声があがっていた。
たしかに、常連にそういわせるのも首肯できる。
まだチャリがあった頃はよくあちこちの店に赴いていたものだが
もう一度行こうなんて店はそうそうなかった。
が、ここは値段もボリュームも味も水も全て素晴らしく
俺は近いうちに、もう一度来るんだろうなと素直に思えたほどだ。
もしかしたら、いつか俺もあの客と同じように
「いつもので」なんて口にする日がくるかもしれない。